経に曰く、
もろもろの痛み、かゆみ、瘡瘍は、みな心火に属します。心は血を主り、気をめぐ
らせます。もし気血が凝滞すると、心火の熱を挟み、癰疽のたぐいを生じます。
大きくて高く盛り上がっておこるのを癰とします。平らで内側に発生するものを疽
とします。
(疒+節)は頭のある小瘡、瘡は総名です。これらの病では多くの場合、魚肉、厚
味を食し、座ってばかりで身体を使わず、色慾を過ごしたことにより、水がへり、
火が盛んになったためにおこります。熱毒が内側を攻め、気血が煎熬して出来上
がったものです。
背中に発生した癰疽には肩井、委中に鍼をしなさい。また始めて発したものには、
ニンニクを小片にし、瘡の上に敷いてその上に灸をして、熱さがしみないものはし
みるまで、しみるものはしみなくなるまで灸をしなさい。発した日から7日以内な
らば、治ります。
背中に発生した癰には、至陰、通谷、束骨、崑崙、委中。髪より出るにものは、竅
陰、侠谿、陽輔、陽陵泉。髭より出るものは厲兌、内庭、陥谷、衝陽、解谿。脳よ
り出るものは絶骨。
腸癰は両肘をきちんと曲げ、肘頭の鋭骨の端に灸を100壯して、膿血が下れば落
ち着いてきます。
嚢癰、陰腫には、崑崙に灸を3壯。久病で陰部が腫れるものには水分に灸をしなさ
い。
乳癰【訳注:乳がん、乳腺炎など】には天枢、水泉、肩井、臨泣、侠谿。
疔はかならず、面や手足に出ます。面上と口の角に生じたならば合谷に灸をしなさ
い。手に生じたのならば、曲池に灸をしなさい。
背中の上部に出来たものには、肩井、三里、委中、臨泣に灸、行間、通里、少海、
太衝に鍼をしなさい。足にできたのなら、行間、三里、委中、臨泣、掌後横紋に灸
をしなさい。男は左、女は右に七壮すえたのならば、治ります。
紅絲疔は、頭や、手足の間に黄色い泡のようなものを生じます。その中に紅紫の線
があります。
鍼を線のところに刺して、血水を去らせなさい。そうでなければ心に入って、治り
難くなります。
瘰癧は核のある塊であり、耳の前後、顎頷、頚喉に生じます。胸脇に生じて形ちの
長いものを馬刀とします。小さいものを結核といいます。いくつも連なっているも
のを瘰癧といいます。
少海【原注:まず、皮の上を刺すこと三十六息をして、その後、核の大きさほど鍼
をいれて、三回鍼を上下して出します】天池、章門、臨泣、支溝、陽輔に灸を百
壮。肩井【原注:には年の数ほど】、手の三里、曲池、大迎に灸をしなさい。
痰核は、項、臂、胸にあって、紅くならず、痛まず、膿になりません。肩井、曲池
に鍼をしなさい。
嬰瘤には、天容、翳風、間使、天突に二十一壮、肩(骨禺)に十八壮、また、両耳後
ろ髪際に灸を七壮しなさい。
疣子には、いぼの上に灸を一壮して、水を滴らせるとよいです。
瘍腫には、少海。
癬瘡には曲池、支溝、後谿、崑崙、大陵
癮疹には、肩(骨禺)、曲沢、曲池、環跳、合谷。
便毒には手掌の後ろの横紋より中指の先までの寸法をとり、そ
の寸法をまた横紋より臂の方へむけて寸の尽きるところに三壮灸をしなさい。便毒
が右であったら右の手にしなさい。
【訳者私見】
色々な、痛みかゆみ、瘡瘍をみな心火に属すると考え、その上に、気血が凝滞し
たときに心火の熱が逃げられなくなって、癰疽の類いを生ずるとい考えていますね
え。面白いなあ。
このあたり、江戸時代の人は、裏がしっかりしていたんだなあと思います。
背中に発生した癰疽に対して、肩井、委中というのは、上下で熱を散らしていく
という感じですね。
また、ほとんどの経穴が、熱を泄らす経穴が中心になっています。考え方に一貫
性がありますねえ。
脳より出るものは絶骨というところが、興味深いですね。脳より出るってどんな
イメージなんでしょうか?。中風みたいな事をいっているのかなあ。
ここであつかう瘡瘍は、皮膚だけではなく、いまでいう癌なども含んでいる感じ
ですね。それに対して、気血を大きく動かしたり、熱を大きく下すことによって、
治していこうという発想がみれます。
乳癰に天枢、水泉、肩井、臨泣、侠谿とあげられています。胆経の経穴が中心で
すね。気を動かし、血を動かすという発想が貫かれているのではと思います。ま
た、乳ですから、胃経の天枢が選ばれているのかな。